夜に一人考えた。
 好きなのだ。
 私と一緒にいても、きっと彼に何かしてあげることはできない。
 邪魔なだけかもしれない。
 そのうち、呆れて嫌って、離れていくかもしれない。
 でも、好きなのだ。
 どうしようもない自分だけど、彼が好きだと言ってくれた。
 一緒にいたいと言ってくれた。
 奇跡みたいなことがおきたのだ。
 
 もし、私のことをもう嫌っていても、言おう。
「好き」
 そう言われて、とてもうれしかったから。



 翌日合ったら、大山佑は気まずそうな顔をして玲から目を反らした。
 ズキンと胸が痛くなる。
 やっぱり嫌われたのだろうか。
 玲の顔を見ずに、彼は近づいてきて、一冊の本を手渡してきた。

「これ、昨日の忘れ物」
「あ、ありがとう」

 そそくさと離れていこうとする彼に、玲は慌てた。
 嫌われた、嫌われた。もう、視界が涙で歪みそうだ。
 ああ、でも早く伝えなくては。じゃないと、勇気が挫けそう。

「待って!」

 腕をつかむ。
 驚いて振り返る彼に、言った。

「好きなの。ずっと好きだったの。でも、勇気がなくて。ごめんなさい。もう、私のこと嫌いになったかもしれないけど、でも伝えたくて。すごく、すごく嬉しかったの」

 涙がぼたぼたと落ちてくる。
 何て、情けない女なんだろう。同情してくれと言ってる様なものじゃないか。
 こんなんで、彼を縛り付ける気?
 涙なんか早くとまれ。嫌な女だと思われちゃう。

「……知ってる」
「へ?」

 驚いて玲は、すっとんきょな声を出した。
 大山佑は顔を真っ赤にしながら、玲が手に持っている本を指差す。
 
 忘れ物だと渡された本を改めて見ると、玲は驚いて落とした。
 顔色が目まぐるしく赤と青に変わる。
 告白されて、どうしたらいいのかわからなくて、悩んで思わず書店で目に入って買ってしまった詩集だ。
 恋の詩満載。
 あんまり参考にはならず、でも捌け口がなくて、書いてしまったのだ。最後のページに。

 ポエムを。

 ああ、恥ずかしすぎて死にたい。

『硝子のコップ

 君はキラキラかがやく硝子のコップ
 大好きだけど 使えない
 
 壊してしまいそうだから

 わたしは 不器用
 でも 好きなんだ

 遠くからいつだって 眺めてる
 触らずに

 壊したくないから
 傷つけたくないから

 大好きだけど 大好きって言えないよ

 君に好きだと言われると
 わたしまでキラキラしてしまいそう

 でも 言えない
 臆病なわたし

 壊してしまいそうだから

 触らないから 眺めさせててください』


 最後にキッチリと書いてあるのだ「返事、なんてすればいいんだろう…」と呟きが。
 
 佑は詩集を拾って、顔を赤くしたまま最後のページを開いて、玲に見せた。
 大きな文字で(たぶん油性マジック)一言。

『俺、プラスチックのコップだから大丈夫!!』

 佑はボリボリと頭をかきながら、顔を茹蛸のようにさせていった。

「えーーと、今日一緒に帰らない?」
「う、うん」

 恥ずかしすぎて、クラクラしそうだったが、玲は気力を振り絞って返事をしたのだった。
 
 二人は自分たちのことでいっぱいいっぱいで気づいていなかった。
 ここが、教室だということを。
 時は朝。ぞくぞくとクラスメイトは集まっていたが、みんな先に入っていた同級生に静かにするように指図され、息をつめて二人を見守っていたのだった。
 数瞬後、二人は皆に祝福されて、学校公認のカップルになったのだった。 

 二人へのクラスメイトの印象は、ちょっと変わった。
 からかわれているうちに、光と影はごちゃまぜに。
 光と影はどっちだったのか。

 どっちにしろ、どっちかがないと、どっちも成立しないのは確かなことだ。








モドル